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2008.10.22 欠片(KAKERA)
「男は心の一片を欠いて生まれてくる。
女はその男の心の欠片を掴んで生まれてくる。

男はその欠片を捜し求めて荒野を走り回る。
女はその欠片を握り締めて黒い森を彷徨い歩く。

荒野を走りぬき、森から彷徨い出た時、二人は出会うのだ。」

その店の若い主人は「へ~、そういうもんなんですかね~」と、洗い物をしながら酔っ払った中年男の戯言に相槌を打っている。

「そうなの、そういうもんなんだよぅ!男と女なんてのはさ!」
その酔客は「ねぎラーメン」と言ったきり、急に黙り込んでしまった。

その店「いせのじょう」は飲み屋が入っている飲食ビルの一階にある店だ。

たまにではあるが、出来上がった酔客も来る。
そんな客でも白いワイシャツに腕まくりをしている店主は、いつもにこやかに応対している。

「はい、お待たせしました。ねぎラーメンです。」

20081022163232


「おぅ、すごいネギだなあ、すげえや」
「はい。」

「でもね」
酔客はネギをスープに沈めながら話を続ける。
「オレはまだ、その欠片にめぐり合っていないんだよ。」
「はい。」
「誰がオレの欠片を持っているんだろうなあ・・・」
「誰なんでしょうね、その女性は。」
「あ~、美味いねえ、ネギにラー油掛けても良いかなあ。」
「あ、どうぞどうぞ、あれ、ラー油は・・・」

そのとき、隣で餃子とライスを食べていた女性がラー油を差し出してきた。
「ど、どうぞ・・・。」
消え入りそうな小さな声だった。
「あ、すいません」
「いえ・・・」
恥ずかしそうに小さく返事をしたまま、また彼女は餃子を食べ始める。

店の周りのどこからかカラオケが聞こえてくる。

「あのう・・・」
とその女性は小さく酔客に語りかける。
「うん?」
「あのう・・、ワタシもその欠片ってヤツ持ってるんでしょうか?」
「あ~?う~ん、」酔客は口篭る。
「持ってるよ、しっかりと。持ってるさ。うん。」
「そう・・・、ワタシでも、持ってるのか・・・。」
「うん、しっかりとね・・・。」
なにかを確認するかのように、そう言いながら酔客はスープを飲み干していた。
酔いも醒めたのか、「餃子ちょうだい」と追加をする。

「あ、は~い。」

「二枚ね、この人の分も焼いて。」
「は~い。」

「え!?」
「食べられるでしょう?もう一枚くらい。」
「は、はい・・・。」
「付き合いなよ、餃子くらいさ。」
「はい・・。」

お互いの出口の光が、どこかの飲み屋のカラオケががなる「真室川音頭」に混ざって見えてきたのか。
屈折を重ねる光はやがてはプリズムとなり一筋の線となる。

夜は夜らしく喧騒を包み込む。
光は希望を照らし迷いを消し去る。

店内の小さなスピーカーからは Ella Fitzgerald  の As Time Goes By   が遠慮気味に漏れてくる。

そろそろ、厚手のコートが必要だ。



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